ディロンギのサービスドアを開けた瞬間、私は目を疑った。
あるはずの抽出ユニットが消えていた。家族に聞いても、誰も触っていないという。
「まさか……誰か家に入ったのか?」
毎日飲めていたコーヒーが飲めない事も問題だが、セキュリティこそ大問題だ。

家中を探した。 娘もお孫も知らないと言う。
こりゃ、ホームセキュリティも検討しなければならない。
娘は警察に連絡した方が良いと。
でも待てよ。空き巣に入ったのなら、抽出ユニットのみを盗み出すことは無いだろう。
酔っぱらった自分が、抽出ユニットを掃除してどこかに置き忘れた可能性は無いか?
全く記憶が無い。
仕方ないので、新品の抽出ユニットを買おうとネットをググったら3万円以上・・・なんと言うことだ。
ならば、いっそ新品のディロンギマグニフィカ7万円を買ってしまおうかと。
抽出ユニットの型式を確認しようと、ディロンギサポートに連絡をしてみた。
ディロンギから届いたメールには、こう書かれていた。
「抽出ユニットは内部で上下に動作いたします。」
半信半疑で、指示どおりにコンセントを抜き差しし、スチームノブを操作した。
しばらくして、
ウィーン……ガタン。
機械の中から聞こえる懐かしい作動音。
サービスドアを開ける。
そこには──
いた。
消えたはずの抽出ユニットが、何事もなかったように元の位置へ戻ってきていた。
私は思わず笑ってしまった。
犯人は侵入者でも家族でもない。
ディロンギ自身だった。
抽出ユニットは「消えた」のではなく、機械の中で迷子になっていただけだったのである。
新品を注文する必要もなくなり、セコムを契約する必要もなくなり、警察へ相談する必要もなくなった。
コーヒーを一杯飲むための機械に、ここまで振り回されるとは思わなかった。
しかし、その一杯は格別だった。
エスプレッソの香りが部屋に広がる。
いつもの味なのに、今日は少しだけ特別だ。
「飲める。」
それだけで、こんなにも嬉しいものなのか。
ディロンギの前に立ちながら、私は思わずつぶやいた。
「おかえり、抽出ユニット。」

ただ一杯のコーヒーを飲むための機械が、私に「密室ミステリー」を体験させてくれたのである。

早速取り外して、洗ってみる。

説明書をよく読むと、毎日、終了後に洗ってくださいって書いてあった。

そして、東京ばな奈のチョコレートクッキーを一枚つまみ、ゆっくりとコーヒーカップを口元へ運んだ。
事件は、無事に解決した。
もしディロンギの抽出ユニットが「なくなった」と思ったら、慌てて新品を注文する前に、メーカーへ問い合わせてみてください。
本体内部の上部で停止しているだけかもしれません。


コメント